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故障予防論文 2019年読了 約7分文: かずきち

ノルディックハムは肉離れを予防するか

予防プログラムへ取り入れた競技者では、ハムストリング肉離れの発生率がおよそ半分になりました。ただし、研究の中心は球技選手です。

先に結論

  • ノルディックハムストリング運動を含む予防プログラムでは、対照群に対する損傷リスク比が0.49でした。相対的には約51%低いという結果です。
  • ランダム化比較試験だけ、高いバイアスリスクの研究を除いた場合でも、予防方向の結果は残りました。
  • ノルディックハム単独と複数運動を組み合わせたプログラムが混在し、対象の多くは球技選手です。陸上選手で「必ず51%減る」という意味ではありません。

どんな研究か

2019年に『British Journal of Sports Medicine』へ掲載されたシステマティックレビューとメタ分析です。システマティックレビューとは、決めた基準で関連研究を広く探し、研究の質を確認して整理する方法です。メタ分析とは、複数研究の結果を統計的にまとめ、全体の効果を推定する方法です。

研究課題は「ノルディックハムストリング運動を傷害予防プログラムに含めると、ハムストリング損傷は減るか」です。対象はスポーツを行う競技者、介入はノルディックハムを含むプログラム、比較は通常練習またはノルディックハムを含まない予防プログラム、結果は損傷の発生件数または発生率と定めました。

著者らはMEDLINE、CINAHL、OpenGreyを検索し、異なる競技・年齢・男女を含む15研究を採用しました。合計8,459人で、追跡期間中に525件のハムストリング損傷が記録されています。

対象
競技者 8,459人
損傷件数
525件
研究数
15研究
ランダム化比較試験
8研究
主な競技
サッカーなどの球技
評価
損傷の発生件数・発生率

用語メモ:ノルディックハムストリング運動
膝立ちから上体を前へ倒し、太もも裏のハムストリングで下降を制御する運動です。筋が力を出しながら長くなる「エキセントリック収縮」を強く使います。エキセントリックは、着地しながら体を支える、ダンベルをゆっくり下ろす、といった動きにも見られます。

用語メモ:ランダム化比較試験
参加者やチームを偶然に介入群と対照群へ振り分けて比べる研究です。もともとの能力や意識の違いが片方へ偏るのを減らし、介入の効果を検討しやすくします。

何が分かったか

数値の読み方:リスク比・95%信頼区間・p値
リスク比は、介入群の損傷リスクを対照群で割った値です。1.0なら差なし、1.0未満なら介入群の損傷が少ない方向です。95%信頼区間は真の効果が含まれると考えられる範囲の目安で、この範囲が1.0をまたがなければ「差なし」を統計的に除きやすくなります。p値は、差がないと仮定したときに今回ほどの差が偶然に出る確率の目安です。

15研究をすべてまとめた結果

ノルディックハムを含むプログラムのリスク比は0.49、95%信頼区間は0.32〜0.74、p値は0.0008でした。対照群のリスクを1とすると介入群は0.49で、相対的な減少率は1−0.49=0.51、つまり約51%です。信頼区間全体が1.0より小さいため、予防方向の差は統計的に明確でした。

ランダム化比較試験だけの結果

研究設計の強い8件のランダム化比較試験だけをまとめても、リスク比は0.52、95%信頼区間は0.32〜0.85、p値は0.0008でした。相対的には約48%低い計算で、全15研究の結果と大きくは変わりませんでした。

研究の偏りを考慮した結果

バイアスリスクが高い研究を除いた感度分析でも、リスク比は0.55、95%信頼区間は0.34〜0.89、p値は0.006でした。バイアスリスクとは、研究方法の偏りによって効果を実際より大きく、または小さく見積もるおそれです。感度分析とは、結果を左右しそうな研究を除いても結論が保たれるか確認する解析です。推定効果は約45%減へ小さくなりましたが、予防方向の結果は残りました。

「51%減」の正しい読み方

51%は相対リスクの減少であり、51ポイント減るという意味ではありません。例えば、ある集団の損傷リスクが10%なら、リスク比0.49を単純に当てはめた介入群の目安は4.9%です。差は5.1ポイントです。一方、もとのリスクが2%なら目安は0.98%で、差は約1ポイントです。

実際の絶対的な減少幅は、競技、性別、既往歴、スプリント量、試合数、追跡期間などによって変わります。この論文から「陸上短距離選手100人に行えば何人の肉離れを防げるか」を一つの数字で出すことはできません。

用語メモ:相対リスクと絶対リスク
相対リスクは「何割になったか」、絶対リスクは「何ポイント変わったか」を表します。予防効果を実際の人数で考えるには、相対的な減少率だけでなく、もともとの発生率も必要です。

練習へどう読み替えるか

  1. 「含むプログラム」の効果として扱う。15研究にはノルディックハム単独と、他の運動を組み合わせた予防プログラムが含まれます。このレビューは、走動作、ウォームアップ、負荷管理をノルディックハムだけで置き換える根拠ではありません。
  2. 継続できる量から段階的に増やす。論文間で実施量や進め方が異なるため、唯一の最適処方は決められません。強い筋肉痛でスプリント練習が崩れないよう、練習歴と週間配置に合わせます。
  3. 高速度走との役割を分ける。ノルディックハムは膝関節を中心としたエキセントリック筋力を狙う運動です。実際のスプリントで起こる股関節運動、接地、全身協調をそのまま再現する運動ではありません。
  4. 症状がある選手の治療法にしない。これは損傷が起こる前の予防研究です。痛みや力の入りにくさがある選手、復帰過程の選手は、診断と段階的な復帰計画を専門家と確認します。

この研究だけでは言えないこと

  • 異なるスポーツを含みますが、研究の中心はサッカーなどの球技です。陸上短距離選手だけの予防効果を示したレビューではありません。
  • ノルディックハム単独の研究と複合プログラムが混在し、運動単独の効果を完全には分離できません。
  • セット数、頻度、進行方法、シーズン内の配置が研究ごとに違い、最適量を一つに決められません。
  • 51%は全体をまとめた相対的な推定値です。個々の選手に起こる効果や絶対的な減少人数を保証しません。
  • 予防効果の研究であり、すでに起きた損傷の診断、治療、競技復帰の判断には使えません。

原論文

van Dyk N, Behan FP, Whiteley R. “Including the Nordic hamstring exercise in injury prevention programmes halves the rate of hamstring injuries: a systematic review and meta-analysis of 8459 athletes.” British Journal of Sports Medicine. 2019;53(21):1362–1370.

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