先に結論
- 高負荷トレーニングでは小さな改善、複数の筋力トレーニングを組み合わせた方法では小〜中程度の改善が確認されました。
- プライオメトリクスは全速度をまとめた解析では明確な差がありませんでしたが、時速12km以下に限ると改善が見られました。
- 結果が示すのはランニングエコノミーの変化です。レースタイム、VO₂max、故障リスクへの効果を直接示した研究ではありません。
どんな研究か
2024年に『Sports Medicine』へ掲載されたシステマティックレビューとメタ分析です。システマティックレビューとは、あらかじめ決めた基準で関連研究を漏れなく探し、質を評価して整理する方法です。メタ分析とは、複数研究の結果を共通の尺度へ換算し、全体としてどの方向にどれほど効果があるかを統計的にまとめる方法です。
著者らは、中・長距離ランナーが筋力トレーニングを行い、走る練習だけを続けた対照群と比較した研究を集めました。31研究から37組の「筋力トレーニング群と対照群」の比較が得られ、ランニングエコノミーを測った走速度は時速7〜18kmでした。同じ研究が複数の速度で測定している場合も含め、合計80個の効果量が解析されています。
- 研究数
- 31研究
- 対象者
- 652人(男性472人・女性180人)
- 年齢
- 17〜45歳
- 競技水準
- 中程度195人・高水準272人・非常に高水準185人
- 介入
- 6〜24週間・週1〜4回
- 測定速度
- 時速7〜18km
用語メモ:ランニングエコノミー
一定速度で走るときに必要な酸素量またはエネルギー量です。同じ速度で必要量が少なくなれば「改善」と判断します。燃費に近い考え方ですが、フォームだけでなく心肺、筋、腱、神経などの働きを合わせた指標です。
用語メモ:1RM
正しいフォームで1回だけ挙げられる最大重量です。この論文の「高負荷」は原則として1RMの80%以上、または7回以下しか反復できない重さを指します。
何が分かったか
数値の読み方:効果量と95%信頼区間
効果量は、研究ごとに単位が違う結果を同じ物差しで表した数値です。この解析ではマイナス方向がランニングエコノミーの改善を表します。95%信頼区間は、真の効果が含まれると考えられる範囲の目安です。この範囲が0をまたぐ場合、「改善なし」の可能性を統計的に除ききれません。
高負荷トレーニング
高負荷トレーニングは、時速8.64〜17.85kmで小さな改善を示しました。効果量は−0.266、95%信頼区間は−0.516〜−0.015、p値は0.039です。p値は「実際には差がないと仮定したとき、今回と同程度以上の差が偶然に出る確率」の目安で、一般には0.05未満を統計的に有意と扱います。ただし、信頼区間の上端は0に近く、効果は大きいとはいえません。
複数手法の組み合わせ
高負荷とプライオメトリクス、高負荷と中程度負荷などを組み合わせた方法では、外れ値の影響を調整した解析で効果量−0.426、95%信頼区間−0.768〜−0.083、p値0.018でした。対象となった走速度は時速10〜14.45kmです。単独の高負荷より大きな改善でしたが、組み合わせ方は研究ごとに異なります。
プライオメトリクス
プライオメトリクスは、ジャンプやホッピングのように、筋と腱をすばやく伸ばしてから縮める運動です。時速7〜18kmをすべてまとめると対照群との差は明確ではありませんでした。しかし走速度で分けると、時速12km以下では小さな改善が確認されました。したがって「どの速度でも有効」ではなく、評価した速度によって結果が変わる可能性があります。
中程度以下の負荷とアイソメトリック
サブマキシマル負荷は、最大より軽い重さを使う筋力トレーニングです。3研究をまとめた結果では、時速9.75〜16kmで明確な改善がありませんでした。アイソメトリックは、関節を動かさず筋力を発揮する運動です。足首の底屈を対象にした3研究をまとめても、時速10〜15.28kmで明確な改善は確認されませんでした。どちらも研究数が少なく、「効果がない」と確定したというより、現時点では差を示す材料が足りないという読み方が適切です。
選手の走力と測定速度
高負荷トレーニングは、VO₂maxが高い選手、または速い速度でランニングエコノミーを測った場合ほど効果が大きくなる傾向がありました。VO₂maxとは、全身が1分間に取り込んで利用できる酸素量の最大値で、有酸素能力の代表的な指標です。ただし、この関係は研究間の違いを使った分析であり、個人に同じ変化が起きると証明したものではありません。
なぜ改善する可能性があるか
論文では、高負荷トレーニングによって神経と筋の連携が変わり、短時間で力を立ち上げる能力が高まる可能性を挙げています。この能力をRFD(力の立ち上がり速度)と呼びます。接地時間が短い走行中に、ブレーキから蹴り出しへ素早く移る働きと関係すると考えられています。
もう一つの候補は脚のスティフネスです。スティフネスとは単なる「体の硬さ」ではなく、接地時に脚全体がばねのように変形し、元へ戻る性質です。筋と腱に一時的に蓄えた弾性エネルギーを効率よく再利用できれば、同じ速度に必要なエネルギーが減る可能性があります。
注意:これらは著者らが先行研究をもとに示した説明候補です。今回のメタ分析は、神経活動や脚のスティフネスの変化がランニングエコノミー改善を直接引き起こしたことまで証明していません。
練習へどう読み替えるか
- 「重いものを挙げる日」と「速く跳ぶ日」を区別する。高負荷は大きな力、プライオメトリクスは力を素早く出す働きを主に狙います。研究では両者を組み合わせた方法も使われましたが、疲労を考えず同日に詰め込むことを推奨した結果ではありません。
- 少なくとも6週間の単位で評価する。介入期間は6〜24週間、頻度は週1〜4回でした。ただし週何回が最適かを直接比較したわけではないため、この範囲をそのまま処方にはできません。
- 走行練習への「追加」として考える。研究の比較は、走る練習に筋力トレーニングを加えた群と、走る練習を続けた群が中心です。競技特異的な走行練習を筋力トレーニングで置き換える根拠ではありません。
- 自分が改善したい速度で確認する。効果は測定速度によって異なりました。低速のジョグで変化がなくても競技速度付近では変化する可能性があり、逆もあります。同じ条件で経時的に測る必要があります。
この研究だけでは言えないこと
- 高負荷は11研究、プライオメトリクスは11研究でしたが、サブマキシマル負荷とアイソメトリックは各3研究です。方法ごとに根拠の厚みが違います。
- 証拠の確実性は高負荷などで「中程度」、複数手法の組み合わせでは「低い」と評価されています。今後の研究で推定値が変わる余地があります。
- 多くの研究は実験室で一定速度の酸素・エネルギー消費を測っています。レース展開、坂、路面、暑熱、疲労を含む実戦そのものではありません。
- ランニングエコノミーの改善が、同じ割合のレースタイム短縮につながるとは限りません。
- 最適な種目、セット数、週間配置は直接比較されていません。成長期、未経験、故障復帰中の選手には個別調整が必要です。
原論文
Llanos-Lagos C, Ramirez-Campillo R, Moran J, Sáez de Villarreal E. “Effect of Strength Training Programs in Middle- and Long-Distance Runners' Economy at Different Running Speeds: A Systematic Review with Meta-analysis.” Sports Medicine. 2024;54(4):895–932.